著書『日本の独立』(飛鳥新社)やブログ「植草一秀の『知られざる真実』」などで、利権複合体(既得権益勢力、米国、官僚、大資本のトライアングル)の真相・真実と、主権者たる国民がこれらの諸権力と闘う必要性を訴え続けてきた植草一秀氏。転換期を迎えた日本国家について、どのように感じているのか話を聞いた。
高速道路無料化にしても、東京での話は財源が必要になるとか、国のそろばん勘定に合う、合わないという話になります。しかし、もう少し俯瞰(ふかん)して見れば、日本列島全体のなかで高速道路はかなり整備されているわけですが、ほとんど使われていないのが現状です。みんな一般道を使っていますが、巨大な国費を投入してつくったインフラですから、本当はできる限り使ったほうが有効だという面があります。
高速道路無料化を単なる財政収支上の問題に矮小化するのではなく、存在している資本ストックの最適活用の視点から捉え直して、無料化あるいは値下げしたうえでトラックなどの長距離走行車を高速に誘導し、近場を走る一般車を一般道に誘導すれば、経済の効率は上がり、交通事故は減るでしょう。人身事故も大きく減ると思います。このような視点でものを見る発想は、東京では出てこないですね。
京都と若狭湾を連絡する自動車道なども無料化実験が実施された期間は交通量も増加して、巨額の投資費用も初めて日の目を見たと思いますが、無料化が中止されて交通量は激減し、若狭湾地域の観光収入も大幅に減少していると思います。無料化には、直接的な収入減少を補って余りあるメリットがあったと思いますが、東京しか見えない霞が関の財政再建原理主義の発想が日本全国に無理やり適用されて、日本が大きく歪められている感じが強いですね。
渋滞が発生すれば有毒な排気ガスの排出量が増えるとも言われますし、渋滞は経済効率を低下させますから、渋滞が発生する地域については、有料制で台数をコントロールすることが必要でしょう。しかし、圧倒的に大部分の地方については、渋滞問題が発生しようがありませんから、値下げや無料化にはプラスしかありません。料金収入が減ると思い込んでいる人が多いようですが、需要の価格弾力性、つまり値下げでどれだけ利用者が増えるかという視点を加味して考えると、値下げにもかかわらず収入そのものが増えることも十分ありえます。こうしたことを含め、高速道路無料化問題を杓子定規にではなく、柔軟に考える思考が求められています。
(つづく)
<プロフィール>
植草 一秀(うえくさ かずひで)
1960年、東京都生まれ。東京大学経済学部卒業。大蔵省財政金融研究所研究官、京都大学助教授(経済研究所)、米スタンフォード大学フーバー研究所客員フェロー、野村総合研究所主席エコノミスト、早稲田大学大学院公共経営研究科教授、大阪経済大学大学院客員教授、名古屋商科大学大学院教授を経て、現在、スリーネーションズリサーチ(株)代表取締役。著書は『日本の独立』(飛鳥新社)ほか多数。
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